HeartBreak One Run

走る。登る。回す。紡ぐ。

ルート3776往復

2022年お盆に信越トレイル110キロを歩き、長い記録を付け終えたのはその2週間後。ホッと一息をついたのもつかの間、「富士山いっちゃえ」と邪心がささやいた。だって去年はコロナ自粛だったし、来年はどうせ外国人がいっぱい入ってくるんでしょ。今しかないじゃん。

8月26日、仕事を定時で上がり、自宅でシャワーと晩御飯。すぐに飛行機に乗って東京。新幹線で三島。乗り換えを急いで23時10分にスタートのJR吉原駅到着。富士塚に寄ってスタンプラリーを開始した。その際、1人のトレラン風ランナーとすれ違う。もしかして同じ目的かな、なんて思う。

富士IC近くのドンキで酸素缶を買っていくつもりがまさかの24時閉店。途中のミニストップで紫芋ソフトクリームなるものが目に留まり購入。甘くて美味い。食べ食べ歩いていると、歩道の段差に足を取られ、手からスポッと抜けたソフトクリーム(まだコーンにもたどり着いていない)が道路上でつぶれた。400円もしたのに・・・。マジっすか。へこんだ気持ちでよもぎ湯で2つ目のスタンプ。そこから先、集落がある間は自動販売機があり飲み物の補給はできたが、林道に入って以降は山小屋くらいしか給水ポイントが無いのは要注意だ。

林道はただただつまらない道。なにより眠い。どこかに眠れる場所がないか探しながら歩いていると背後からライト。車が来た? 不審者に思われないよう林の中に隠れようとしたところ、4人ぐらいのパーティで、逆に不審者に思われてしまったかもしれない。元気に挨拶しておく。上り坂なのに一気に追い抜かれたのがちょうど「ほうのきパーク」のあたりで、そこから左折したところで再び背後から人の話し声。2つのライトが近づいてくる。結構人歩いてるんじゃん。2人組は走ってはいないらしく、しばらく距離は縮まらないまま。ただ、その状態があまり気持ちよくないので、少しペースを落として追い抜いてもらうことにした。追いついた2人組は別にパーティーというわけでなく、ソロ同士がちょうど会ったような感じで、1人はコース経験者。せっかくなので私も途中まで一緒に歩かせてもらう。

PICA表富士が三つ目のスタンプポイント。ここのベンチにも前夜22時に出発してきたという2人組。まだ朝5時だというのに、この時点ですでに10人近くがルート3776を歩いている。ほとんど人に会わなかった信越トレイルに比べてちょっとびっくりだ。ここで即席パーティから抜けて1人走る。どこかでこっそり仮眠したいと思ったからだ。とにかく眠い。ねてねぇぜ、ねてねぇぜ。目を閉じながら走ると10秒くらいで足がふわっと浮くような感覚。一瞬記憶が飛ぶようだ。それを3回ぐらい繰り返しながら、どこかでひと眠りしようと思ってはいるのだが、ここぞというポイントになるとたいてい誰かがいる。というか、チャレンジャーほんとに多すぎ。

旧料金所ゲート手前からトレイルに入る。青々と苔むした明るい森。信越と何が違うんだろうと考えていたが、富士山はとにかく流水が少なく全く見られない。時たま人がいて追い抜く。それを繰り返していくと視界が開け、大きなピークが飛び込んでくる。森林限界を越え、ようやく富士山のお出ましだ。それに加えて宝永山。離れたところから見る分には富士山にできたちょっとしたオデキみたいな存在だけど、目前に佇む姿は雄大で、富士山につながる稜線は美しい。

6合目の山荘で最後のスタンプ。あとは山頂で写真を撮るだけだ。ここから先はただひたすら上るだけ。行列に従って、時には一気に追い越したりしながら歩いていく。目につくのは初心者ばかりで、歩幅が乱れまくりペースが乱れまくる若者とか、子供を置き去りにする父親とか、声も出さずに突然後ろから抜いてくるトレラン風とか、絶対途中で力尽きるだろう年寄とかで、正直あんまし面白くはない。けれど、20年前。私が大学生で初めて上ったときも、周りから見たら同じように見えたんだろうな。

9合目あたりからガクンとペースが落ち、一般の人の行列にもついていけなくなった。歩幅を半歩以上開くとすぐ息が上がってしまう。疲れのせいか、睡眠不足か、酸素が薄いからか。それでもなんとか上り切り、山頂でお札を買って、最高峰の碑で記念撮影。この撮影がルート3776スタンプラリーの最終記録になるのだが、撮影の行列が長くて辟易した。1時間近く並んで、結局撮影は数秒で終わらせて先を急ぐ。ルート3776はこれで終了。だけどこれだけじゃつまらない。せっかくだから帰りも海まで歩くというのが今回の計画だ。であればここからピストンで下ればいいのだけど、せっかく山頂に来たのならお鉢巡りもしたかった。ぐるっと火口を一周してから帰路につく。

高度を下げていくと調子が戻ってきた。ペースを上げて調子に乗っていたところ、すっころんで右肩を強打した。まぁ、片手が動かなくても特に支障はない。6合目を過ぎ宝永山から御殿庭に向かうあたりから完全にソロ行動に戻る。徐々に日が沈み始め、それと同時に森の中に霧が流れ込んできた。そうか、苔むした森はこの霧が生み出したのか。そういえば、富士山の静岡側は、午後になると雨になることが多いのだそうな。

ロードに出たあたりで言葉通りの五里霧中。私は歩きだから大丈夫だけれど、車の人は運転に難儀しただろう。西臼塚駐車場に屋根のついた休憩所があったので、ここで一休み。30分ほど横になったが入眠できない。眠ることが出来ず、まだ行動が出来てしまう状況に逆に困惑して、人として何か大切なものを失ったような気がしてしまった。というか、ここで眠れないと残り30キロほど歩くことになるんだけど。。。

PICA表富士を過ぎてしばらく行ったあたりから霧はだいぶ収まり、一人っきりの長い長い林道は本当に退屈で。22時過ぎにようやくたどり着いた大淵公園。この日のゴールはやめて、途中の快活クラブで一泊することに決めた。とはいえそこまでまだ10キロを歩き、50時間ぶりに眠ることができたのは深夜1時だった。

結局快活では2時間ほどしか眠れなかったけれど休憩は十分とり、翌28日の午前11時、ふじのくに田子の浦みなと公園にゴールした。ふと過去の記録を読んだとき、東海道五十三次の旅のときにすでにこのルート3776を意識していた記載があった。フォッサマグナの旅でも意識していた富士山。今回そんな目標の1つをクリアできたのではあるが、いかんせん眠さと疲れで、あんまり記憶が残っていないという。。。もし次回歩く機会があったとしたら、その時は西臼塚駐車場から先の往復でいいかな、と思った。

今回の旅で一番大きな悩みだったのは天気のこと。お盆が明けて早々真夏の猛暑は過ぎ去り、石川県では曇りと雨が交互に続くような状態が続いていた。登山専門の有料お天気サイトに登録して詳細を確認したけれど、登頂予定の27日はCランクと、あまり良い評価が出ていなかった。一方で、出発を一週間遅らせると雪マークがちらほら山頂に表れるようになり、これも面白くない。ダメ元で突っ込み活路を得た。そんな感じの旅だった。

© 2022 HeartBreak One Run

テーマの著者 Anders Norén