HeartBreak One Run

走る。登る。回す。紡ぐ。

美川→白山→白川→荘川→高山→平湯→乗鞍岳→松本(2017年8月11日~16日)

今年の春。まだ獅子吼山頂の雪も解けていないときから、今年は山の年だと思っていた。

僕は白山しか知らないから。その白山も一部しか知らないけど。

つい2年前まで、それがどこにあるか分からない”能登さ”だった。

ずっとそれは北アルプスの一部だと思っていたし、そもそもなんでそれほど高い山でもないくせに、3大霊山なんて言われてるんだろうと思っていた。

けど今、そのほとり。手取川の河口に住んでいる。川の流れ。さかのぼって山頂へ。けど、そこで止まってはいられない。もっと先に行きたい。どこまで行けるか(どこで止まるか)を考えたとき、長野県松本市が1つのポイントとなった。そこは僕の親戚が住んでいる町で、新幹線ですぐ金沢に帰ってこられるところ。(えー長野と混同しておりましたよ、ゴールの直前まで)

時間は十分あったから、それに途中でリタイヤ可能ポイントも多いから、いけるだろう。そういう判断だった。

8月11日。お盆前の仕事納め。やることを済ませ、定時で終える。早めの晩御飯を食べ、1時間の仮眠を取り、荷物の最終チェック。ツェルトのペグを紛失していたことに気付き、ホームセンターに急ぐ。

夜9時半。水を500ml程度に抑えて、結果7kg程度になったバックパックを背負い、アパートを出た。せっかくだからスタートは海から行こう。美川駅前を通り、大橋から、この旅を始めた。

 

 

食べたもの

 

これは計画の甘さと言われても仕方ないのだけど、美川から特に高山市までの区間、食糧確保には難儀した。

当初予定ではコースの28km地点にローソン白山吉野店があり、ここでお弁当なり、最低でもカップラーメンくらいは胃に入れていく腹積もりだった。けれど、実際その前を通ってもそれらしき店は見当たらない。何度も来たことがある店舗なのに、見逃すはずがない。カロリーメイトはいっぱいあったから、室堂までは持つだろうという予測。室堂でカレー食べればいいやという楽観。

いざ室堂について、午後4時。室堂の食堂って、午後1時までしか一般開放していないんですね。(そりゃそうだ、宿泊客の夕ご飯の準備をしなきゃならないんだ)チップスター2パック(1つ200円)とカップヌードル(カレー味お湯込み500円)で胃をごまかす。平瀬道を下りたら午後7時。この先、高山駅の手前までの約70kmあまり、コンビニはない。カロリーメイトとフルグラ、ドライソーセージでつなぎ、トボトボ歩く。

ようやく食事をとれたのは、荘川の道の駅で。炊き込みご飯1パックと、どこにタコが入っていたのか分からないタコ焼き1パック。それでもようやくこのタイミングで、一息入れることができた。

ソバ挽き水車@荘川

高山市に入ったらすきやで牛丼が食べたいな、そう思っていたけど、ホテルに向かうルートから意外と遠くて。近くにあった吉野家で食べる。特盛が全然胃に入らない。気持ちが悪い。相当弱ってたんだろう。

朝食はなか卯のカツ丼。まぁそれなりです。ちゃんと食事をとれたからだろう。高山から平湯にかけての40km(上り道)は普通に走れてしまった。

この旅一番のメインディッシュが平湯で食べた遅めの昼食。「あんき屋」の朴葉味噌カツ定食だ。味噌カツと言えば名古屋の甘い赤味噌ばかりだけれども、静岡大学のメンズが知る味噌カツといえば、しょっぱい濃い味の味噌。(そう、天八のあれだ)静大を卒業していろんな味噌カツを試したものの、どれも甘い赤みそで辟易していたところ、ここに来てようやく出会えた、って感じだ。

 

朴葉味噌カツ@あんき屋(平湯)

アルミの下から固形燃料であぶられていて、時間が経つごとに味噌が濃厚になる。もうこの味噌だけでご飯いけます。ご飯大盛お替わりさせて頂きました。

「あんき屋」にはこの後さらに2度行くことになる。温泉で体を休めて仮眠をとった後、10時ごろだったかの晩御飯。同じ店員さんがいて恥ずかしかったので違うメニュー。ホルモン焼き定食みたいなやつ。これもこれで美味也。でっかい車でキャンプ場に乗り込んでBBQする家族連れ。ここまで2500m峰を越えて200km歩いて来てレストランで食事をする僕。なんだろう、ちぐはぐ感。

お腹を満たして本眠り。朝4時、平湯乗鞍登山道は「あんき屋」で登山届を出すところから始まる。道中はお馴染みカロリーメイト。今回はチーズ味メーンで持っていき、もうだいぶ飽きたところ。ランダムに引っ張り出し、口に入れ、それがたまにチョコレート味だとテンションが上がるという楽しみを覚えた。

畳平では天ぷらうどんを食す。揚げ玉が自由だったのでお玉いっぱいに入れさせて頂く。海老天はしっかり身が詰まっていて美味し。だし汁をしっかり吸ってふやけた揚げ玉もまた美味し。

で、実は道中最後の(ちゃんとした)食事がここだったりする。以降、乗鞍高原のペンションで食事をとろうと思ったことも多々あったけど、雨でびしゃびしゃの自分が入ると迷惑だろうと勘ぐって入れなかった。新島々駅からの道中は、その日のホテルを探すころに心が行ってしまっていて夕食のことは忘れてしまっていて、ようやくホテルが見つかって初めて、コンビニ(セブンイレブン)でカップうどんとおにぎりを買う余裕ができた。ここで初めて、おにぎりの外側と内側に具のあるおにぎりというのを見る。長野のコンビニ(調理委託業者)独自のものかなぁと思ったものの、その後石川でも見かけることになる。

最終日の朝ごはん。ホテルのビュッフェ。めっちゃうまかったのだけど、お盆明け前の高速バス、とても混んでるんじゃないかと思い、お替わりもせずにチェックアウト。結局バスはガラガラで東京行きの便も結構あって、ああもっとゆっくりしておくんだったと後悔した。

番外編。浅草の二代目遠山の上ロースかつ定食がすさまじく美味かった。カツの味だけでいえば人生最高クラス。けど、やっぱトータルでいえば朴葉味噌かなぁ。

 

飲んだもの

 

荷物のウエートは水の量が左右する。今回の旅で最も気を付けたのがこの点。なるべく自販機があるうちは自販機で済ました。

旅を通して感じたことは、日本という国は本当に水に恵まれた国だということ。「弘法池の水」(白山市吉野)や、岐阜県荘川のトンネルを抜けてすぐ。国道158号線の脇にある「三谷天然水」。高山から平湯に向かう途中の「長寿水」。こうした設備の整ったところでなくても、上流に人がいなさそうな流水は沢山使わせていただいた。(白水湖から平瀬に向かう道中の湧き水、高山に至る白山街道沿いの上流水)

白山街道沿い。峠に沿って流れる清流。

つい先日、日本にもし山がなかったら、降水量は今の10分の1しかなかっただろうという話を聞いた。海に囲まれた国はたくさんある。けれど、人が使える水が豊富かどうかはまた別の問題だ。体をつくる水。エネルギーを生み出す水。手取川。手取湖、御母衣湖、梓湖。荘川の清流。それを生み出すジオの山々。僕自身も生かして頂いた。感謝。満たされた。感謝。

 

寝たところ

 

ツェルトを使うのは今回が初めて。山を愛する先人に倣い、使用したのはストックシェルター。設営の簡便さが特徴だが、178cmの僕には多少せまく感じた。まぁ許容範囲内。何より大きな問題だったのは、ペグを出発直前に紛失していたこと。とはいえ、金具がなくても意外となんとかなるところがこいつの懐の広さ。尾っぽの細い部分を何か(木の根とか)に固定できれば、頭の部分はバックパックで抑え、あとはストックが支えてくれる。

白山を下り、平瀬に向かう途中で仮眠した(緊急ビバークといいたい)。道路沿いで寝るのはさすがに怖いから、道路脇道を少し入ったところで設営し、寝ようとしたところ、車のライトがこちらを照らす。柵があって車が入れないところだったので、とんでもなく怖かった。とりあえずツェルトから出てご挨拶。向こうもびっくりしていたようで(そりゃそうだよ)、旅の健闘を祈っていただいた。おかげさまで3時間ほど熟睡できた。その後、御母衣ダム入り口あたりの公園でもう少し仮眠した。

高山でホテルを事前予約しておいたのは正解だった。ただ、コインランドリーがずっといっぱいで使えなかったのには辟易した。結局深夜2時に起きて洗濯するはめになった。

平湯で初めてのキャンプ場。とはいえその前にビバークをしているもんだから、特に困ることなくスムーズに設営完了。トイレもあってよい環境だった。

乗鞍を越えてエコーラインを終え、158号線に復帰して。この旅の終点である松本駅に着くのが23時ごろだろうと分かった時、まず不安になったのがその日の夜をどう乗り越えるか。ホテルは軒並み満杯。市街地のためビバークはできない。

そんな僕を救ってくれたのは、松本IC前のルートインだった。通常の部屋はやはり満室。しかし、冷房が壊れた部屋が1つあり、どうしてもというのなら。。。ということで入れて頂いた。あの時は本当にありがとうございました。おいしい朝食ビュッフェ、今後はお腹いっぱい食べられるよう、余裕をもった計画を立てます。

道具について

 

inov8のX-TALON212について感想を書きたい。トレイル用のシューズでありながら、ロード用と同等の軽量感。旅を始める前の試走で、泥に対してはがっつりグリップするものの、濡れた岩肌に対して革靴なみにスリップすることが多々あった。このことから白山のガレ場でどう出るかが不安だったものの、今回の旅でスリップすることはほとんどなく、やはり優秀なシューズだと思った。(滑ったのは白山に向かう道中、濡れたロードの白線上ぐらい)

ただ、軽量化のツケはどうしても出てきてしまうようで、特に今回ロードを走る区間が多かったことも起因しているのだろう、ソールのすり減り具合がとても速い。旅を終えた段階で、シューズのかかと部分とフォアフット部分のブロックはすべてすり減って平らになってしまった。adizero mana1足で1,000km走ってしまう自分としてはちょっとショッキングだった。が、今後もトレイルで使うのはX-TALONが主力になるだろうな。やっぱ軽さは正義だ。

一方、とても悩んだのはバックパック。候補は2つ。軽量でTJAR選手の採用歴もあるPaaGoWorksのRUSH28(550gくらい)。名前が好きというしょぼい理由で購入したものの、使ってみるととても良く、東京→静岡→美川の自転車旅を共にしたOSPLEYのKESTREL(1.4kg)。シューズについては軽さは正義と言いながら、選んだバックパックはKESTRELだった。

伸縮性ストックのホールドや折りたたみ式マットの取り付け。ウェストホルダーに小物を入れられるポーチがついていることも加点箇所。ハイドレーションパックの収納が外側にあるというのも非常に良い。いちいちバックパックを開いて出す手間が必要ないというのは大きい。レースで使うとなれば今の主流は水を入れやすいフラスクだろうけど、フラスクはついつい飲みすぎてしまう。やはりハイドレーションパックは便利だ。こうしたKESTRELの特性に加えて、これまでの登山で使用してきた信頼性が1kg近いハンデを十分挽回できるものだったということだ。結論。登山用バックパックでも十分走ることはできる。いずれ、その機能をRUSHに移行したら最強なんじゃないかと思う今日この頃。

 

 

 

 

この旅を終えて

結局、最終日は泊まるところや帰る手段とかで慌ててしまい、松本まで行ったのに松本城すら見ずに帰ってしまう体たらく。けど、飛行機で東京から小松へ。バス、電車を乗り継ぎJR美川駅に着いて、アパートまであと少し。心は誇らしげに、どうだオレは帰ってきたぞ。やったった。小さくガッツポーズ。ここでようやく少し、その味を感じることができた。

この旅をどうまとめようかと考えて、「制覇」という言葉は使いたくないな、と思った。これは自然が僕の命を繋いだ物語。僕がしたのは、歩き始める決意と止まらないという選択。あとはただ、自然に身を委ねただけだ。ただひたすらに歩いた。そのシンプルな時間が本当に愛おしかった。痛みすらも! それを与えてくれた、日本の自然に感謝。感謝。感謝。

 

 

あ、でも。なんやかんやで全日程でロード区間の半分くらいはちゃんと「走った」からな。↑はちょっと謙遜しただけだからな。

自然は思い通りにいかない。ガスる日もある。@白山弥陀ヶ原

でも、がんばる人に自然は優しいのかもしれない。

雨の降りしきる中、室堂に至る道での一瞬の青空。感謝。

 

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テーマの著者 Anders Norén