HeartBreak One Run

走る。登る。回す。紡ぐ。

勝手に白山白川郷ウルトラマラソン(美川→角川)

美川の自宅から手取川をさかのぼり、今年初めての加賀禅定道へ。いつもは仕事終わりの夜スタートだけど、今回は朝8時に家を出た。台風14号の直撃がどれくらいのインパクトなのかを見定め、あんまり風も強くならないことを確かめてから小雨の中走り出した。目的地は飛騨角川。ここ2年開催できていない白山白川郷ウルトラマラソンを勝手に再現しようと考えた企画。白川郷ゴールだとちょっと距離が足りないので、電車の通っている角川まで行ってしまおうという腹積もりだ。平瀬~白川郷区間、白川郷から天生峠を越えて角川に向かう道が初めて歩く区間となる。

この旅は3週間前の2連休に挑戦していたものの、瀬女まで行ったのに、大雨予報で泣く泣く引き返した。2021年シルバーウイーク。折角なら延伸した信越トレイル110kmとか、地図が発表された比良比叡トレイルと高島トレイルを組み合わせて…なんて思っていたけれど、台風が来ていたことだしスケールダウン。このリベンジに繋がった。

自宅から登山口まで

小雨降る中気温は上がらず、手取川沿いのランニング区間はとても快適。晴れているより走りやすいかも。川沿いにはヒガンバナの群生が出来ていてとても綺麗だ。白山比咩神社にお参りし、途中のドラッグストアで昼ご飯の太巻きを買って食べながら歩く。ドラッグストアの弁当なんてと若干諦めていたけど、意外と旨い。その他にカレーパン、ハムタマゴのパン、果汁グミ2袋、プロテインバー2本を購入。ちなみに家から持ってきた食べ物は日清のカップ飯(ZipLockリフィル)6食分とサラミ4本。白川郷のコンビニで再補給した分も含め、ゴールまでに全ての食糧を食べきることになった。

道の駅瀬女に到着したのは14時頃。道中ネットラジオを聞きながら走っていてスマホの充電が10%を切っていた。休憩がてらモバイルバッテリーで充電しようとしたところ、バッテリーが見当たらない。Lightningケーブルも無い。事前にちゃんと見ていたはずなのに、やばい。家に忘れてきたのかもしれない。ACアダプタはあるがケーブルが無ければ意味が無い。これが夜に起こったことならきっと旅を諦めて家に帰っていただろう。けれどもこの日はまだ明るかったし体力も結構残っていた。いいや、行っちゃえ。これから夜になるだろうし、雨も降ってるし、写真だってきっと撮れない。ナイスな判断で先に進む。
一里野到着が15時。当初スタートは6時の予定で朝4時からスタンバイはしていたものの、もうすぐ雨が晴れる予報が出ていたので出発を遅らせていた。結局晴れずに雨の中スタートしたのだから、予定通り走っていればもう少し余裕を持って登山道に入れたのに、と少し残念。

ハライ谷登山口に着いたのが15時15分。この時間から加賀禅定道に入るのは初めてで、結構緊張した。この日は奥長倉山の避難小屋に泊まる予定だ。日の入りまでに出来る限り小屋に近付きたくて一気に登った。途中の水場に寄る時間も勿体なかったので、登山口手前で流水を3Lほど汲んでおいた。結局避難小屋に到着したのは18時15分。頑張ればここまで3時間で来れるんだ。
小屋の中には1組の先客夫婦が居た。所さんの目がテンで知った百四丈の滝を見に来たらしい。いずれは冬に見に来たいそうだ。冬山登れる人は尊敬する。カップ飯(カレー飯)2食分を消費。スマホを動かせず目覚ましがかけられないので、3時に起こしてもらうことにして就寝した。

禅定道核心部から平瀬道

予定通り3時に起床。カップ飯2食分(ぶっこみ飯)を補給した。カップ飯は耐熱性のZipLockに詰め替えることで容積重量ともに小さくなり、とても優秀な登山食になる。ただ味に飽きが来やすく、夜はカレー系、朝はぶっこみ飯を交互に食べることにしている。お湯の量をどれも200ml程度で十分(公式には240~280ml程度)。特にカップヌードルぶっこみ飯は、水を少なくするとチャーハンのような感じになってとても旨い。

朝4時、夫婦に挨拶をしてまだ日の明けない禅定道を歩き始める。夜の登山道はちょっと転びやすいけど、真っ暗なおかげで高度感の恐怖が少なく、意外とラクに進める。奥長倉山から美女坂の急登もスムーズにクリアできた。百四丈の滝は真っ暗でほとんど見えなかった。

天池のあたりから徐々に明るくなり始めた。ここから先油池までの道が禅定道の核心部で本当に綺麗なところ。ここで夜明けを迎えられたことに感動した。実はこれも今年やりたかったことの1つだったりする。天気も回復し、雲の無い空。スマホの電源を入れ直し、残り2%の力を振り絞って沢山写真を撮った(そして彼はそのままお亡くなりになった)。七倉山分岐に着いたのが7時。大汝峰を経て御前が峰。室堂着が9時半。ここからダッシュで平瀬道を下り、11時半に下山した。

平瀬から白川郷

白水湖から平瀬を繋ぐ白山公園線(県道451号線)は、松本までの旅で人生初ビバークをしたところなので思い出深い。いつもは日暮れ以降の暗い中を走っていたけれど、今回は明るいお昼の時間。結構な車の量で世の中シルバーウイークを満喫してるんだと実感した。下り坂ならキロ7分後半で走れる。途中の洗い越しでシューズと足を洗い綺麗にしたが、ちゃんと脱水しなかったのが良くなかったようだ。塹壕足になってしまった。今回の旅は結構しっかり目にJ1プロテクトを足に塗り込みちゃんと乾かしていた。結果マメは出来なかったものの、塹壕足で出来た深いシワに力が寄って、結局痛みが出てしまった。その後白川郷で靴下を変えるとある程度収まったので、今後は気を付けたい。
平瀬まで残り4kmぐらいのところにある流水がいつも美味い。何故か分からないけどここの水はぬるくなっても美味い。写真をUPできないのが本当に残念だ。
ここから先の目的は、スマホを回復させること。まず第一のポイントは平瀬に出てすぐにある道の駅「飛騨白山」だが、ショップはあるものの地産品しか置いていないようだった。お腹も若干空いていたもののとにかく急いでスマホを回復させたい。美味しそうなソバ屋を素通りし、白川郷までの約10kmを急ぐ。ホントはここの温泉にも入ってみたかったが残念。当初は夜スタートの2日半で計画していた旅を、今回は3日で進むことになる。だから時間には結構余裕があって、本当はいろいろと観光もしながら歩きたかった。あぁスマホが生きていれば・・・。

1時間半から2時間をかけて、ようやく白川郷の入り口に辿り着く。ウルトラマラソンでよく通った道だから覚えている。橋を渡って萩の集落に入り、茅葺屋根が見えてくるけど私の目的はヤマザキショップ。コンビニなら絶対バッテリーはあるはずだ。観光客がそこそこ入っていて、美味しそうなソフトクリームがいっぱい。いや我慢だ、まずヤマザキ。集落を出たところにあるヤマザキショップはもうすぐ潰れるんじゃないかと思うぐらい棚が空いていた。とても不安に駆られたものの、バッテリーとケーブルそれぞれ1個残っていたので購入した。忘れ物の代償は4,000円也。足元見やがって・・・と思った。

無事スマホを起動でき、ようやく心に少し余裕ができた。平瀬で入れなかった分、白川郷の温泉に行くことにした。泥っぽい色のお湯で大浴場にジェットバス、露天風呂。水風呂とサウナは休止中だった。コロナだから仕方ないかもしれないけれど、せめて水風呂はやっててほしかった。ここでこっそり下着とかを洗う。下着はfinetrackのドライレイヤークール。シャツは相当ヘビーに使っていて、なんならL2をはさまずL1にリュックという恰好で走ったりもするからだいぶ擦り切れている。パンツは最近買ったものだがとても良い。普通のパンツは汗を吸って塩の結晶が出来てしまい肌を傷つけるが、それが無いのは嬉しいところだ。お湯は熱くて30分といられず、扇風機の前で洗った下着を乾かす。2日履いた靴下は恐ろしい臭いを放っていて、ZipLockで隔離した。ここで新しい靴下に変えたところ、足のトラブル(肌の痛み)がだいぶ和らいだ。

天生峠を越え角川へ

今回の旅のクライマックスは天生(あもう)峠だ。秋は紅葉を楽しめる道だそうだが、9月はちょっと早い。温泉を出たのは夜17時。ここから角川までの35kmの間、初めて歩く道を進まねばならない。地図で見る限り、きっとスマホは圏外になるだろう。車は通る道なのか? 怖いのは動物だ。クマ、それにイノシシ。それでもスマホが回復しちょっと強気になっていた私。再びヤマザキショップで食糧を買い込み、天生峠(県道360号線)の坂道を登り始めた。
白川郷の集落を離れたあたりで道は夜の闇に包まれた。ここで役立つのが新投入したヘッテン(以前使っていたのは信濃大町の溝に流してしまった)。以前使っていたBlackDiamondのStormはベルトがゆるゆるになることと、電池交換の手間が不満だった。新たなヘッテンはLEDLENSERのMH5。マグネット充電式で便利。最小光量で20lmというのが山で使えるかどうか不安だったけど、試したところちゃんと足元は見えた。
ほとんど車が通らない道を進んでいく。13kmほど続く上り区間ですれ違ったのは4台くらいだろうか? 時々獣の臭いが強くなると手を叩いてアピールする。しばらく歩いて標高が高くなると、辺り一面が霧に包まれた。ライトがあろうと道路の反対側が見えない。足元2mを見るのが精いっぱいになった。
道中不安だったのが水問題。白川郷を出た時は1.5Lほど持ってはいたけれど、本当にそれで足りるのか? 峠だからどこかに水も沸いているだろうと思っていたけれど、川の音はすれども霧で見えない。わずかながらチョロチョロ流れているのを見つけ、途中で500mlを補給した。
天生湿原の駐車場が峠の頂点のようだ。この時点で時刻は21時。角川まで残り20kmと少し。このまま歩き続けたとしても、到着が1時とか2時とかになってしまう。そんな時間に街中をウロウロしているのは住民の迷惑になるので、一旦ここで休憩することにした。残っていた最後のカップ飯2食分を投入。残っている食糧は白川郷で買った10個入りぐらいのミニクリームパンのみ。本当は装備を軽量化したくて、JetBoilを持ってくるかどうかはとても迷っていた。が、あって正解だった。白山の白川郷側はコンビニが少なく食事補給が難しい。白川郷の食事処は全て緊急事態宣言の余波で休業していたこともあり、結局ちゃんとした食事を取れるチャンスは道の駅飛騨白山のソバしかなかったことになる。そんな中でお腹いっぱいに暖かいご飯(アルファ米だけど)を食べられたのはとても良かった。
食後、トイレの狭い軒下で仮眠。板が痛くて1時間で目が覚め、すぐ近くの芝生に横になる。面倒だったのでツエルトは使わず、シュラフでダイレクトに寝っ転がる。霧で若干濡れているのを除けばとても気持ちがいい。そういえば、避難小屋の板張りも結構腰骨が居たくなった。EVERNEWの薄型折り畳みマットは固い地面は苦手なようだ。そのうちロールマットも検討しなきゃならなくなるかもしれない。
ここでさらに2時間の仮眠。夜の0時半。けっこうスッキリした気分で下り道を進み始める。1時間ほど進むと遠くに橙の光が数点見えた。道路の反射灯ではない。きっと電灯の明かりだ。電気が通っているということは、スマホの電波ももうそろそろ回復するはずだ。ようやく孤独な区間が終わると思うとホッとした。数km進み、住宅の屋根が見える。ここから先は道路沿いに民家がポツポツと建っているようだ。河合元田簡易郵便局で久々の自販機を見つけ、ここでも30分ほど休憩する。そこから先は概ね人の住む道。残り15km。いつものようにラジオを聞きながら、ゴールに向かう。ここに来てタヌキやニホンアナグマっぽい動物と沢山出会う。アナグマは私の気配に気付き走って逃げておきながら、途中何かを見つけると気がそっちに行ってしまい足を止めている。私だからいいけど、車だったら轢かれるぞ。

角川という地をゴールに選んだ理由は高山本線が通る電車駅があるから。これが一番大きなポイントだったけど、もう1つ興味があったのが「あぁ野麦峠」の悲劇のヒロイン政井みねの出身地がこの集落だったということ。明治維新後外貨獲得に貢献したシルクの繊維産業。日本の世界進出を影から支えていた血と汗の歴史。現代の繊維業に携わる身としていろいろと想うところがあった。集落を見ると民家の近くに本当に小さな田んぼがあるだけ。確かにこれでは家族の生活を支えることはできないだろう。だから彼女らは仕事を求め、岡谷に向かって歩いた。天生カツラ街道には、そんな彼女らを見守るように小さなお地蔵さんが1km毎に立っていた。
みねの墓が今でも残っているという。折角だからお参りをしていこうと探せど良く分からない。専勝寺の境内にあることが分かったものの、時刻は3時半。流石にこの時間に侵入するのは悪い。少し遠くから手を合わせ、駅に向かうことにした。
到着が昼であれば寄りたかった温泉施設「ゆうわーく」。食堂はカツが自慢らしい。その先にはなんだかとても趣のある学校施設。駅まで残り1kmの道。ボチボチ散歩を始めるご老人たち。徐々に明るくなりつつある20日の朝5時。角川駅にゴールした。総距離135km(うち山岳区間24km)、45時間にわたる旅だった。

1時間ほど駅で待ち、その間にウェットシートで体を拭いて汚れを落とす。衣服を着替えて始発電車を待つ。無人駅の中には交流ノートが置いてあって、どうもこの駅の近くに映画「君の名は」の聖地バス停があるみたいだ。つい1週間前には政井みねの墓参りに来た方もいたようだ。こんな、ほんのちょっとした駅でも発見はある。歩き旅だから気付けることがある。だから歩くのは楽しい。
2両編成のワンマン電車が駅に着く。角川から猪谷までの間、乗客は私1人。そういえば2年ほど前、自転車旅で白山を一周しようとしてエスケープした際にもこの路線には乗っている。一部区間が雨で崩壊していて、バスに乗り換えて猪谷まで行ったのを思い出した。猪谷から富山。富山からIR鉄道で金沢。金沢からJRで美川駅。全て鈍行で、それでも飽きない景色を楽しんだ。いやホント、モバイルバッテリーの要らぬ出費がなければローコストで漫喫できる、本当に楽しい旅だったのに。



ちなみにバッテリーを入れた袋は、玄関に落ちていた。そういえばシューズを履いていた時、後ろで何か音がしたなと、この時になってようやく思い出した。

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テーマの著者 Anders Norén