HeartBreak One Run

走る。登る。回す。紡ぐ。

手取川から九頭竜へ

1日目:10月1日(美川~瀬女)

2週間前に飛騨角川まで旅をして、ローカル鉄道に乗る楽しみを覚えてしまった。次なる目的地は九頭竜湖。真っ先に3セク化しそうな過疎路線(と勝手に思っている)なのに、ここはまだJRが管理しているようだ。まぁそれはいいとして、せっかく行くなら白山経由で。いつもの通り、美川から手取川を遡り、一里野から加賀禅定道。四塚山、大汝峰、御前峰、別山。南縦走路を経て石徹白へ。石徹白川を下って九頭竜湖に出るコースだ。

仕事がほんの少し長引いて、自宅を出発できたのが夜19時半。前回モバイルバッテリーを忘れてひどい目に遭ったので、今回は予め念入りに装備チェックを行っていた。装備自体に忘れ物はなかったけれど、部屋のゴミ出しを忘れていたので結局途中で一回家に戻る。ちょうどこの日は太平洋側に台風が来ていて、その影響か、若干風は強い。ときたま雨もちらつく。それほど寒くはなかったのでレインウエアは着ず、リュックにカバーを掛けるだけで進んだ。

白山神社はスルー。できれば鶴来のGENKYに寄りたかったけど、閉店が21時で間に合わなかった。代わりにセブンイレブンで菓子パン2個とアイス(Coolish)を買う。弘法池で水を補給し、そこから先は川を渡って国道157号線を進む。こっちの道のほうが街灯が多く、ライトのバッテリーを節約できる。道の駅「瀬女」に着いたのが深夜1時半。当初は一里野まで行ってしまおうと思っていたけれど、結構時間がかかってしまったのでここで一休みした。晴れていたので芝生の上にマットを敷いて、そのまま寝っ転がる。星が綺麗だった。

2日目:10月2日(加賀禅定道~別山平)

そのまま4時ごろまでゆっくりして、せっかくだからと朝ご飯(カレー飯x2)も作る。旨い。今回飯シリーズは計6食分用意していた。6食とは言いながら、食べる時は2食分をまとめて食べる。MサイズのZipLockに2食分をはじめから入れておけば、個別包装に比べてお湯を注ぐ手間を節約できる。Mサイズならお湯400mlを入れてもちょうどいい。ただ、スプーンの柄はある程度長さがあったほうがいい。けっこうゆっくりした朝の時間を過ごし、5時ごろになってようやく旅を再開した。

一里野を過ぎ、ハライ谷の登山口に到着したのが6時半ごろ。ここから加賀禅定道は始まる。前回、2週間前飛騨角川に行った際にも歩いた道だから特に心配することは無い。奥長倉山避難小屋までちょうど3時間。油池には12時半。ここで一休みし、足に保護クリームを塗り直す。ゆるい傾斜の原っぱが広がる清浄ケ原は、紅葉シーズンに向けて衣替えの真っ最中。ササや針葉樹の緑を基調に、次に多いのは黄色。その中に赤く色づいた広葉樹が見える。穏やかな風景、静かな風、青い空。白山の『色』を楽しむのなら、やっぱりここが一番きれいだ。

美女坂より上のササが刈られていた。2週間前は確か結構茂っていたと思うから、最近作業されたのかもしれない。まだ草の匂いが残っていた。前回避難小屋で会った東京から来たカップルには「この道って結構人通るんですかね?」と聞かれた。いや~1日数人程度でしょ。道がしっかり整備されていることに驚いていたようだ。私も本当に頭が下がる。

四塚山の山頂ではこれまた紅葉を迎えたチングルマ。ずっと山草だと思っていたけれど、実はこいつは木の一種だと最近知った。ここまで来てようやく大汝峰が見える。もうすぐ山頂だ。ホントの山頂は御前峰だけど、北部の禅定道からはほとんど見えない。中規模の上りがいくつもあって地味に体力を持っていかれる。当初の予定より1時間半ほど遅れていて、15時ごろ大汝峰に到達した。ここから写真を撮った時はまだ山頂は晴れていたけれど風がだいぶ強くなってきていて、大池巡りコースに降りたころにはガスってしまった。保温着にレインウエアを重ねる。

室堂に着いたのが16時半ごろ。ここから別山を目指す。夕日を浴びて真っ赤に染まる南竜の山小屋群を背景に、本日最後の上り道を越える。日没後に大屏風の危険箇所に進まねばならないことに少し不安を感じていた。けれど、不安はあっても恐怖感はそれほどでもない。ちょっと気を引き締めればいけるという自信があった。繰り返し歩いた道だからだ。危険ポイントも全て覚えている。19時半、ようやく別山に到着した。今考えるとちょっと時間が掛かっている。夜だから結構気をつけて歩いていたからかもしれない。別山周辺の尾根は風を遮るものがほとんど無く、相当寒い。気温はそれほど低くは無いと思うけど、風で体温を一気に持っていかれる。

ここから当初の目的地だった三ノ峰避難小屋まで、通常ならばおよそ1時間。夜行なら1時間半ぐらいか。そんな時間に避難小屋に飛び込むのは先客に悪いし、このシーズンは結構混んでいるかもしれない。これ、実はただの言い訳に過ぎない。白山は国立公園。指定地以外での野営が禁止されていることは重々分かっているけど、どうしても一度やってみたいことがあった。古い宿泊施設跡でのビバークだ。例えば加賀禅定道の天池付近。大屏風の天池もそう。そしてもう1つ。別山平にも石垣が残っていて、きっと江戸時代にはここにも山小屋があったと思われる。ここから夜景が見たかったのだ。

今回用意していたのは久々の登場となるストックシェルター。夜だし簡単に張れるものを、と考えてのことだったが、ツエルトⅡロングに慣れていた自分には想像以上に狭かった。狭すぎて保温着を着替えるのも一苦労。風にあおられバタバタ煩い。風を思いっきり受ける広場にビバークしたせいでとにかく寒い。念のために持ってきたホッカイロ2つ、念のために詰め込んでいたソフトシェルジャケット。念のために持ってきた自作シュラフカバー。御前峰で拾った軍手も。全部全部投入して夜明けを待った。横になって、スマホにダウンロードしていた映画を流す。人の声を聞いていたかった。ところどころで映画のストーリーが記憶に入っていなくて、その時に少し眠れていたんだろう。ただ、時間を確認すると30分も経っていない。そんなことを何度も何度も繰り返していた。いつだったか、若い男の人の声がした。はじめは動物かもしれないと思ったけれど、こちらのライトに気付いたのか何か独り言を言って居なくなった。元気が十分残っている感じでうらやましい。いや、こっちもその気になれば動けるんだけどね。ここが非常に難しいところで、寒いとはいえ思い切って行動しちゃえばすぐに体が暖かくなるのは分かっている。体力も実はまだ残っている(ちょっと寝て回復もしている)。風がいやらしいだけで気温はそこまで低い感じはしないし、ハイマツの影に隠れてしまえば問題ない。分かってはいるけど、荒天下でのビバーク経験は、まだ逃げ道が残されたこの状況下でしか出来ない。ぶっつけ本番は命にかかわる。
なんとか体温を上げたくて、カレー飯を食べようとしたがライターの火が付かない。冷えちゃったのが良くないのか? 体温で温めて再トライ。上手くいかない。何度か試して結局諦めた。オイルは残っていたし、高度の問題なのかもしれない。その代わり、行動食として持っていたカントリーマアムを沢山食べた。20枚近く。こんな環境下でも美味しかった。一度だけどうしてもトイレに行きたくて、風が収まる瞬間を見計らって外に出た。星空を見れたのは、その時の数秒程度だった。とはいえ、一瞬だけど当初の目的は達成できた(ということにしよう)。

3日目:10月3日(南縦走路~石徹白~九頭竜湖)

もうすぐ5時の日の出を迎えるというところで出発を決めた。とりあえず急いで風の弱いところに行こうと、ツェルトもシュラフもぐちゃぐちゃのままバックパックに詰め込んだ。お菓子の袋の切れ端が風で飛ばされてしまった。飛ばされた量より途中の道で拾ったゴミのほうが多いから、今回は勘弁して頂くことに(勝手に)した。

5分も歩けば体は温まった。途中の上り坂がいい感じに体を温めた。乗鞍と御岳の間あたりから、うっすら太陽が顔を出し始めた。御岳の影がとても濃い。赤く濃く色を染めた笹ヤブと朝日。このコントラストが好きだ。茶色系の調光レンズ眼鏡を使うようになってから、山行が本当に楽しくなった。『色』は心を揺さぶる。

スタートからソフトシェル、化繊インシュレーション、レインウエアを着込んで歩いていたため、三ノ峰避難小屋に着くころには逆にオーバーヒート気味で汗をかいてしまった。ここでいったん休憩。装備を着替え、バックパックの荷物をいったん全て取り出して、再度パッキングし直した。ここから先使わないシュラフやツェルトは底のほうに。散らかっていたゴミを空いたZiplockにまとめて入れる。自分で出したごみはもちろん、道に落ちているものも出来るだけ拾うようにしている。ヤブ刈りに参加する勇気は無いけれど、できることからちょっとずつ、だ。ちらっと窓から小屋を除く。あんまり人は入っていないようだった。

6時20分、休憩終了。ここから先の石徹白に続く道は2年ぶりだ。日本海から太平洋に向かう旅以来。あの時は11月で紅葉のベストシーズンだった。10月の南縦走路はまだ緑が優勢だったが、ここは何より稜線づたいの景色が素晴らしい。目指す峰が明確に目の前にそびえ立ち、とは言いながら圧迫感を感じるような標高差は無い。二ノ峰を越え、一ノ峰を越え。三、二、一と石徹白到着をカウントダウンしているかのようだ。銚子ケ岳に着くあたりから、ちらほらと上りの登山客とすれ違うようになる。そういえば、室堂~弥陀ヶ原の区間を除けば、ほとんど人と会っていなかった。室堂到着時はだいぶガスっていて外に人は出ていなかった。人里に近付いている感じがして、それと同時に情けない歩き方はできないぞ、と気合が入る。実は三ノ峰以降、足を滑らせることがとても多くなっていた。岩場ですべり、右手の皮がむけてしまうケガもしてしまった。ここから先はきっと2年前と同じ。朝早くに下る私を見て、皆不思議そうに挨拶をする。こっちはへばっている様子は意地でも見せず、元気に挨拶を返す。やっぱり南縦走路が好きだ。

神鳩ノ宮避難小屋。試しに入ってみる。ガスコンロが置かれていたり、水場も近いようだったし、結構便利そうだ。ホワイトボードを見ていると、9月の日付で三国港から九頭竜川、打波川経由で三ノ峰(福井県最高峰)、Sea to Summitを達成したことが誇らしげに書かれていた。なんか、ちょっと私も言いたくなってしまって、初めてこういうところにメモを残した。

「R3.10.3 美川→手取川→加賀禅定道→大汝→御前→別山→今ここ→九頭竜湖ゴールへ!」

ここから先にすれ違った人が避難小屋でこのメモに気付いた時。あの人か! って思ってもらえたらちょっと嬉しいなと思った。

そこから石徹白登山口までは1時間もかからなかった。9時20分、長い山行の末、ようやく自動車で来れる道に辿り着いた。2年前と同じく、三ノ峰からここまでは3時間程度だ。到着してまず食事を取ることにした。別山平ではつかなかったライターもここではちゃんと機能し、ようやくカップ飯(ヌードルぶっこみ飯)を食べられた。もうね、旨いのよ。その間にもチラホラ車がやってくる。登山道を進む人もいれば、自動車道の奥に歩いていく人も(山菜取りか?)。彼らを横目にご飯を食べて温かい食べ物でお腹が膨れると途端に眠くなる。時間は10時。ここから九頭竜湖まで25kmを歩くとなると(走る気はあんまりない)、4時間ぐらいかかるだろう。JR九頭竜湖駅の電車は14時38分発。そんなにゆっくりしている余裕はない。

石徹白の集落に向かって歩く。6kmほど進むと白山中居神社だ。石徹白大杉もそうだけど、この神社に立つ杉もホントに立派。太い幹に真っ直ぐ伸びた佇まい。枝も綺麗に手入れがされているのだろう。堂々とした佇まいで神社を守っている感じだ。ちなみに、日本各地の里山で見るスギの多くは1950年に制定された「造林臨時措置法」を契機に植林されたものらしい。そうやってできた植林地は暗く、細い枝が弱弱しく伸びていて情けない。広葉樹の明るい森に対してスギにはネガティブな感情を頂いていたけど、石徹白のスギに本来の力強さを見た。

石徹白の住居にはそれぞれ流水を引いた綺麗な池があって、コイやら金魚やらヤマメ?みたいな魚まで泳いでいる。素敵だなぁと思いながら若干速足で進む。小学校を過ぎた三差路。左手に少し行けば2日ぶりの自動販売機があるのだけれど、急いでいたこともありパス。持っていた飲み物は登山口で補給した水500mlだけだったが、どうせここから石徹白川沿いの道。いっぱい水は流れてるだろうと思い、そのまま進んだ。

それにしても、下界に降りてくると陽射しの強さに参ってしまう。とにかく暑い。30℃越えてるんじゃないかと思ったが、後で調べると25℃しかなかった。とはいえ暑いものは暑いから、なるべく木々の日陰を繋いで歩いていく。県道127号線(白山中居神社朝日線)の看板をよく見ると、いつの間にか地名が「大野市小谷堂」になっている。そうか、もう福井に入ったか。ツーリングをしているバイカーさんと何度もすれ違い、道路沿いにある小さなお地蔵さんに手を合わせ、スマホが圏外なのをいいことに、川の流れる音と風が木の葉を揺らす音を聞きながら歩く。しばらく行くと石徹白ダム。九頭竜湖ダムに辿り着くまでに、石徹白川にはいくつもの小規模ダムがあるようだった。Googleナビを見ると、到着予測時間が14時35分。石徹白の集落で見た時は41分ぐらいだったから、少しずつ予測が速くなっていく。できれば少しでも早く着いて、着替えもしたいし何か食べ物も買いたい。下り坂や平地の日陰などはなるべく走るようにした。

キャンプ場を過ぎて少しいったあたり。駅まで残り6km程度のところからスマホの電波が届くようになり、ラジオを聞きながらのラストスパート。ちょうど中部縦貫道路の建設地がこの辺りのようで、なんかすごい規模感で工事が行われていた。それを過ぎると残り3km。そこから進んでいくと、国道158号線にぶつかる。遠くに見覚えのある道が見えた。九頭竜湖ダムへの入り口だ。何年前だったか、自転車で白山一周を試みたときに一度通った道だ。あの時は御母衣湖沿いの道が崩壊し先に進めず高山にエスケープ。高山から先も線路崩壊で、一部バスに乗り換えてほうほうのていで逃げ帰ったのが思い出だ。最終的に14時25分ごろ、ようやく九頭竜湖駅に着き、2日ながらも充実した旅を終えた。

九頭竜湖~?

時間にはまだ10分以上余裕があったからトイレで着替え、以前来た時にはなかったファミリーマートに寄る。電車の中で食べるサンドイッチやお菓子を買って、時刻は14時35分。ちょうどいい時間だ。さて、駅に入ると、出発を待っているはずの電車がいない。何故だ? 待合室には乗客も全然いなくって、まぁそれはこんな僻地だからだろうけど、何故電車がいないんだ? 時刻表を見ると、予定していた電車が14時34分発になっている。再度Yahoo路線で調べるとやっぱり14時38分で表示されている。が、38分を過ぎても電車はやってこない。再び時刻表を見て気付いた。令和3年10月2日に時刻表が改訂されているのだ。。。よりによって昨日改訂かい。。。と、相当へこんだ。

凹むだけならまだしも、ここの電車は4時間(!)に1本しかない。次の電車は18時半まで待たねばならない。電車の中用に買ったお菓子とかをベンチでかじりながら、これからどうするかを考えた。実は計画段階で早く着きすぎたらどうするか検討していた。7kmほど先に温泉があるのだ。その近くには駅もある。1時間と少し歩いて1時間ほど入浴すれば、概ねいい感じの時間になるんじゃないか。というか、それしか時間を潰す方法が無かったので(スマホの電池もあまり残っていなかった)、追加で少し歩くことになった。一度着替えた服をもう一度着替え直し、とぼとぼと歩く。シェッドばっかり。車うぜぇ。ここでも縦貫道の工事中。なんて思って歩いていると、どうもこの旅で時間の感覚が狂いまくっているようで、思ったより早く次の駅(越前下山駅)に着いてしまう。ここで改めて時刻表を確認して、それでも不安だから写真も撮って、温泉施設に向かった。九頭竜温泉平成の湯。そうだ、自転車の旅ではここでジュース買った、というのを思い出した。お風呂は露天、サウナ、水風呂と必要十分な設備を備えていて心地よい。ゆっくりゆっくりと体を癒した。18時頃、ポテチとジュースを買って駅に向かう。実はこの駅、荒島岳の登山口が近くにあるようだ。もしかして、また来る機会があるかもしれないな。そんなことを思いながら、時間ピッタリに来た電車に乗り込み、ようやく本当に旅が終わった。

家に帰ってカップ麺を食べたら、一瞬で寝れた。

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テーマの著者 Anders Norén