HeartBreak One Run

走る。登る。回す。紡ぐ。

2024年1月1日のこと

 朝5時過ぎにホテル南国を出た。ホテル南国は竜串海岸の駐車場に沿う形にあり、マリンレジャーのベース基地にもってこいの立地だ。このホテルはじゃらん予約をやっておらず、直接ホテルのWebサイトから予約申込をしていて、直前まで本当に予約できているのか、そもそも大晦日やっているのかとても不安に感じていた。とはいえ、電話確認する勇気も直前になるまで湧いてこず、高知市を走り始めて調子を掴んだころ、ようやく確かめるに至った。民宿風の施設で宿泊客は多分私1人だったのだろう。ただ、レストランだけはグループ客が入っていたようで、その盛り上がりは2階の私の部屋まで響いていた。煩くて寝付けない? いや、それが正しい正月の迎え方なんだ。

 日暮れの後にホテルに入り、日が出る前にホテルを出て、結局竜串の奇岩を見ることはなかった(猫のような奇岩が最近発見されたらしい)が、偶然にも辰年を竜串海岸で迎えたということだ。まずは少しだけ道を戻り、ローソンで食糧を補給した。先に行くと「ファミリーマート」があるとGoogleマップにあったものの、よくよく見るとコンビニのファミマとは同名異店の個人商店のようだ。これに気付けたのも、寝付けずにスマホをポチポチしていたおかげだ。店の前にはバイクから原付まで二輪車の集団。店に入ると浮浪者のような男がいた。歩き遍路だろうか大きなザックを背負っていた。絡まれるのも面倒なので、20キロ先までの食糧をささっと買ってすぐに旅を始めた。

 高知市から愛媛県松山市までは国道321号線で結ばれている。そこのことを知らずに道路元標を確認しそこねていたことはさておき、この道は概ね太平洋沿いに伸びていて、これまでの3日間の旅はほとんどこの道を辿ってきたといってもいい(なおのこと道路元標を見れなかったのが悔しい)。別名をサニーロードという。年末ながら日中は半そでで十分な日射しは確かに名に違わず暑い。この日もほとんど国道321号線を辿ればいいだけの簡単なルートだ。

 当初予定していた出発時刻は朝7時40分。かなり早い出立となった。ローソンで買ったパンを朝食に食べ、走り始める。旅は4日目になるが調子は悪くない。筋肉痛はほぼ無し。左足首の痛みも薬を使いながらとはいえコントロールできるようになってきた。十分走ることができた。調子よく進むにつれ、道路沿いに車を留めている人をチラホラ見かけるようになった。海沿いの道、初日の出を待っているのかもしれない。そう思うと私も見たくなってきて、ちょうどホテルから9キロほど離れたところにある叶崎灯台。ここに行けばかなり縁起の良い年になるような予感がして、気分が上がる。上り坂も走っちゃう。

 6時半ごろ岬に付くと、すでに10人近くが岬に立って朝日を待っていた。一番人が多いところに私も陣取る(もちろん最前)。日の出の時刻は7時10分。しばらく待ったけれど、他の人も大勢いたのでそれほど暇を持て余すことはなかった。大学生グループで来ているっぽい人たち、家族連れ、私のようなソロおっさん。楽しそうに話している人もいれば、じっと立っている人(私含む)。さすがに寒くなってジャケットを羽織る。7時になる前から徐々に太平洋が紅くなっていく。「見える?」「あれじゃない?」。いろんな声が飛び交う。私は一人だからじっと静かに日の出を待った。2024年の初日の出はそんな中で迎えた。若干雲がかかっていて、最高とまでは言えないなんて贅沢な感想を心の片隅に持ちながらも、それでもやっぱり綺麗なものは綺麗だ。そういえば昨年は何処で見たっけ? 西国街道の旅の途中。一昨年は熊野古道伊勢路の途中。馬越峠を過ぎてもっと先の山頂だった。ただしばらく、じっと見つめていた。
 それにもさすがに飽きた頃、一番人が集まっていたところから更に上に神社があるそうで、折角なので上がってみる。木が茂っていて若干日の出は見づらい。それでも新年を晴れやかに迎えて気分は上々。写真を大量に撮りまくってから旅を再開した。イヤホンから流れる曲はRyu Matsuyamaの「To a Sunny Place」。四万十市から足摺岬に向かう中で気に入った曲だ。ちょうど国道321号線を別名「サニーロード」と呼ぶことを知ったばかりのタイミングで、なんて偶然なんだとテンションが上がった。その勢いで最難関足摺岬を攻略したといっても良い。もう1曲、jizueの『grass』。音楽の力と度重なる偶然。晴れやかな空。全てが走る力となった。

 宿毛を抜け、愛媛。愛南町に入って。ホテル手前でスーパーマーケットFUJIを見つけてどっさり夕食を買い込んで。偶然にも観自在寺の前を通りかかり、道の駅でスタンプを押し。青い国ホテルに入ったのが16時ちょうどだった。

 シャワーを浴びて、スマホでニュースを知った。旅を続けることは出来なかった。

 この1カ月間、書くことを忘れていた。私自身はほとんど日常に戻っていて、それでも書く気になれなかった。2週間を経て、旅の続きを考えるようになった。GWに改めて休みを取りなおすことに決めた。270キロは1週間の旅路としては短い。それでも、この旅を終わらせることには意味があると思った。

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